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週末の奥日光(2)

11 月25日(日)
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2日目も森を歩いた。コースは一日目と半分は同じだった。しかし気分は新しくなった。まずバスに乗り隣に座る相手を探した。登山装備をした初老の男がいたので1時間ほどずっと話をした。40歳で登山を始めエリアはすべて日光だと言った。印象的だったのは男体山を一緒に降りた若い男の話だった。その男は宇都宮に赴任したついでに男体山に登ったらしいが、何一つ水も食糧もない。様子がおかしいので食べ物を分け与えると狂ったように次々呑み込んだと言う。最近は足腰が悪いと言う。たぶん70歳位だろうか。彼のその日歩くコースは志津林道で地味なものだった。ずんぐりした体型の男で三本松でバスを降りて行った。
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私は光徳入口から木道を行くと、かつての環境省のボランティアの同僚たちがクロカン用にポールを建てる仕事をしていてそのうち3人とは顔見知りだった。犬を見せると「いいんだよ」と笑った(政府としてはペット持ち込み禁止だから)。別の人たちの近況も聞いた。全員が70代の老人だった。「皆実年齢よりずっと若い」と一人が私に言った。
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穏やかな挨拶を返してくれたひとりの若い女は、原で休憩している時にもう一度一緒になった。「贅沢な時間を過ごしていますね」と彼女が言った。「写真を撮ってくれますか」と言われたので「犬が眠ってしまっているので」と半分断ると、座ったままでいいと言う。東京の人で、彼女の仕事な話などを中心にお喋りをした。31歳、スタイリッシュな女だった。

そのあとに同じ場所に一人の男が来て、彼は鳥を見ていた。「何が出ますか」と鳥屋のコトバで話かけるとキビタキとイヌワシを追っていると言う。この夏は切り刈りコースに40回も通った、と言った。鳥屋のそういった行為はまるで恋人に会いに通う人間のそれに似ている、と私はいつも思う。が、そんな話はしなかった。私が自分の歳を言うと「へえ、20代にしか見えない」と何度も言った。50代の終わりの男で栃木の訛があった。

帰りのバスで少しウトウトしたので市内で途中下車したあと気分がスッキリしていた。ホームで並び立ったままの乗客もある混雑した車内だったが座って帰った。ひと組の夫婦は通路を挟んだ反対側のボックスにいた。彼もずんぐりした体型で社交的に他の乗客と打ち溶けていた。妻の方はあまり喋らずに合づちをうつ程度だった。夫は浅草の松屋で買ったような総菜や菓子、ビールを並べて東武日光から相手と待ち合わせて浅草に向っているのが自分としては奇妙だった。後半はワンセグで何かの番組を観ていた。私にとって幸福という電光文字がこの二人の上に照らされているようだった。

いつものように北千住で降り、大手町から東京駅まで歩き、等々力行きのバスで家路に向った。そのしばらく来ないバスを待つ間も幾組もの幸せなカップルたちが東京駅の電飾の中で同じ空間を共有していた。丸っこい目鼻立ちの金髪女の美容師同士のようなカップル。「ああ食った食った」と男が呟き、女が非常に寡黙な中年男女。同じバスで同じ家路に向う幾組もの人々を私はただ見ていた。でもまあ、自分には大事な犬が一匹いて今日のところとても元気だ。そのことだけでも感謝しないと。すべてに勝ることだけに。
by necojill | 2012-11-26 15:27 | | Comments(0)