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4月6日の傾聴ボランティア(1)

4月6日(水)
4月6日の傾聴ボランティア(1)_f0204425_21244855.jpgわたくしは〜〜〜〜〜〜です」どうしても聞き取れない。
選挙公報を筒状に丸めたものを手にしていらっしゃる。
「ゴム輪をください」聞き取れた。
「・・・あの、ゴム輪ありますか?」職員さんに私が聞く。
「Kさん、ゴム輪さっき渡しましたよ」筒に留めてあるゴム輪のことか。
「あ、これ、ですよね」
「わたくしは、もっと細くしてほしいのです」
私は選挙公報を丸めて留めていたゴム輪をいったん外し、そのタフロイド版の新聞紙をずっと細い筒にした。ゴム輪を二重にして留めた。
「ありがとうございます」102歳の老婦人が謙虚に礼を述べられた。たったこれだけのことだった。礼儀正しい。


廊下を私が車椅子を押して歩くことになった。
今度はこうおっしゃった。
「わたくしはいつもボールペンがないとダメなんです」
選挙公報は私がさっき丸めた姿で車椅子の座部の彼女の左側に置いてあった。
「ええ、そうなんですか?」私は続けた。
何のためなんだろう。元気でいらしたときはいつもそうだったからなのだろうか。
掃除の女性が私と一緒にその言葉を聞いた。私は彼女に目を遣った。
「あっちよ」ナースコーナーを指した。掃除の仕事の私は持っていない、という意味だと思った。
「あの、ボールペンお借り出来ますか?」私が老婦人の代わりに職員に質問した。
「でも危ないよ」掃除の女性が聞こえるように囁いて脇を通った。
カウンターの中にいた二人の職員は怪訝そうな顔で私を見た。私が何かを筆記したいのか、と思ったらしい。そうではないとすぐに理解した。「Kさん、ボールペンはだめですよ」一人が答えた。その希望は姿を消した。


廊下をぐるっと回ろうとしたが、数カ所でダメ出しが入る。
「そっちはわたくしは行きたくないです」そのとおりにした。
「ここにはいります」「ここはわたくしの部屋です」違う名前の看板がかかっている。誰かの話声がする。「ここにはいってください。お願いします」失礼して少し覗くと、布団の下から誰かの二本の足先が見えた。車椅子を通過させた。
「トイレに入れてください」私がトイレを介助する訳にはいかないので、そこも通過させた。戻る道々「誰か!」という叫びが続いた。「誰か!」「誰か!」「誰か!」「助けて!」
後は体に優しく触れて、顔を近づけ「だいじょうぶですよ」「だいじょうぶですよ」「私はここにいますから」と続けるしかない。


「だいじょうぶです」って私が何も出来ないのに。
「私がここにいます」ってそれが何の意味もなさないのに。
「助けて!」って言う人に、助けてあげられない自分はいったいなんなのだろう、と今日はずっと思っていた。

帰りがけ、その特養老人ホームの一階に統一地方選挙の仮設の投票場が設営されているのが目に入った。
(つづく)
by necojill | 2011-04-06 21:25 | 書き残し | Comments(0)