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塾の宿題

6月11日(木)

昨日、友人のアパートを去った私は、何となく出来るだけ初めてのルートで家路に向かおうと考えていた。午後5時頃だったか、何時の間にか世田谷の呑川緑道を走っていた。ほぼ同じスピードで幼稚園年長組の男の子とその母親のチャリが前後にあった。子供のチャリは黒で真新しく、大き目のタイヤでサドルが最低位置にセットされていた。「あのね、僕のクラスで眠いのかも知れないんだけど、ずっと泣いてる子がいるんだよ」その事を2度繰り返した。「ええ泣いてるの? ずっと?」母親がやっとのことで反応した。「うん、でも眠いのかも知れないんだけどね」とその子は相手の名誉のためにそう説明を繰り返した。その時不覚にも私自身が泣いていた。だからきっと自分の事だろうと思った。

グーで殴られた後は特にそうだった。悲しくて自分をどこかに見失ってしてしまいたかった。例えば、赤信号と青信号の間の100分の1秒の隙間とか。薄っすらと汗ばんだ長袖シャツと肌の間のムッとした熱気を帯びた幾つかの分子の間にとか。「ここだよね」少しして2台のチャリは左折してどこかへ行ってしまった。私は再考した。自分の乗物がきっと家路に向かっているのだと。だってそうに決まっている。一旦、今日は7時に帰るけどいいかいと息子に電話したのだが、既にその用事は消え去っていた。2台のチャリ。二人の人影。私と息子。そうだ、きっと2台目のチャリは家のガレージにある。(息子はもう24歳なので、そんなに待ってはいないと思うが)たまたま今日は家にいるのだ。

手入れの行き届いた種類の多い樹木が緑道を順序よく飾っている。どこの家からも夕餉の支度をする空気がそこら中にあった。すれ違いがてら、数軒先の一戸建てに別の小3位の男の子が、家の中に入って行く所だった。「ただいま」と言う代わりに彼は元気よくこう言った。

「おかあさん、塾の宿題3ページだけだったよ」

必ず母親の背中がそれを受け止める。そう必ず、彼女はそうする。涙がまた滲んで来た。でも私にも家族がいる。それも偶然今日は会社を休んでいる。

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「今日はガミガミしてるな」と今夜息子が言った。「昨日とは随分違うな」「昨日は×××にイジメられた?」やっと進化したハズなのに。いちいち報告するという儀式を卒業したと思っていたら見抜かれていたか。
by necojill | 2009-06-11 16:49 | 書き残し | Comments(0)